OASYS文書をWindowsに変換したもので、図表・特殊文字が欠けている。修正・編集予定。
米国マネジメント雑感 8/3/87 平井克秀
開発者に対するインセンティブ(動機付け)
物的なインセンティブを与えられない経営環境では,経験ある優秀なプログラマ
(ましてやマネジャ) の採用が大変困難であるという慢性的問題を抱えている。特に初期のプログラム開発が終了し,余り面白みのない製品化段階では,「挑戦的な仕事」ができJOB
CAREERとして魅力があるといった精神的なインセンティブもなくなってきている。
今後, どうやって開発メンバのやる気と生産性を上げていくかが大きな課題となっている。これに応えるのには,継続的に「挑戦的な技術開発」を進めることをコミットすることと,
販売を促進し優れた製品であることを世の中に認めてもらい開発者の誇りを満足させていくこと,
そしてあとはプロモーションをし,地位と少しばかりの金銭的なインセンティブを与えていくほかない。..........
米国エンジニア気質
プログラマはプログラムを作ることが責務であり,システム全体のテスト・デバッグ・品質テストの責任はない。マニュアル作成の責任もない。これらを一所懸命やっても評価されず,自分のJOB
CAREERにもならない, との意識が根強い。本プロジェクトでは,開発メンバの頭数に制限があるため,テスト・製品化専用のエンジニアを雇うこともできず,なんとか日本的マネジメントの期待で,プログラマの転用をはかる試みを繰り返したが,なかなか機能しない。無理強いすれば,プログラマは辞めていくだろう。そのときは製品化専任の人間を雇う空きができるが,こうした仕事に興味をもつ優秀なエンジニアはいない。米国のソフトウェアの品質の悪さ,
発表後なかなか製品が出荷されない,出荷後もマニュアルに記載されている機能がなかなか使用可能とならない,
などといった問題の理由を今身をもって理解させられている。製品化, 検証テスト,
品質テスト, デバッグ/ 修正, マニュアル作成などの「非挑戦的ジョブ」をどうやって動機付け,
実行するか。この一年間の悩みである。今手を打ちつつあるProduct Manager のJob
Description と彼を中心としたタスクフォースが機能するべく努力したい。...........8/3/87
採用と解雇
Dr.Carnegie の「How to win friends & influence people 」は世界的なベストセラーで、日本でも「人を動かす」といった題名で管理職必携の書となっているのは周知のことである。しかし、これが米国マネジャのバイブルではないのは明らかである。MBA
必読書の一つなのかどうか、私は知らないが。同書は、古き良き時代に生きた著者が50年以上も前に書いた本である。生き馬の眼を抜く激しい競争社会に生きる今日の企業人にとっては、Carnegieの説くことは今も真実ではあろうが、「友達と仲良くする」だけでは生き残れないのも事実である。「How
to deal with difficult employee 」といったタイトルの本の方が今日のマネジャ必読書の一つではないだろうか。
人間関係の悪化は部門全体の士気と生産性に大きな影響を与える。日米共通ではあるが、その影響度合いでは米国の方がはるかに大きい。放置すれば優秀な人間から、黙って辞めていく危険をはらんでいる。企業は人なり。優秀な人間を確保していくことは必須である。みんなをハッピーにすることは不可能である。だとしたら、問題児を冷徹に切り捨てる勇気と決断が要求される。Carnegieの説く性善説的な人間関係の維持向上は、仕事の能力評価という非人格的側面では別の議論になってしまう。日本では、人事異動・左遷といった形で実行されているが、米国では
9割以上が雇用関係解除の形をとる。雇用関係解除といったのは、米国では法的な問題が現実的に絡んでくるからである。原則的には、雇用主はいかなる理由でもあるいは理由なしに雇用関係を解除できるようにしているが、実際には、とくに大企業ではそういうことはできないのが実情である。不当解雇として訴えられる危険があり、大企業ほど、とりわけ日本企業ほど訴訟を恐れる。恐れるが故に訴えられやすい、という悪循環にあるのも事実であろう。
....(不当解雇訴訟の事例).....
しかし、訴訟を恐れて、組織に害を及ぼしている従業員を野放しにすることは、その組織の自然崩壊を待っていることと同じである。Corrective
Action を迅速にとり、改善の見込みがないと判断した場合には、断固とした態度でマネジメントの決定を通告すべきである。それができなければマネジャではない。..........4/89
・Performance ReviewとCorrective Action Planの実際
・組織攪乱の兆候........噂さ、疑い、妬み
・Sexual Harrassment....予防と露顕時の迅速な対応
・継続的Recruiting......予備軍、現役、退役軍人の新陳代謝と組織活性化
COMMUNICATION
組織効率、生産性を維持・向上するためのマネジメントは、とくに従業員間の人間関
係、個々人の人事労務管理、仕事の目標設定とレビュー、動機付けなとの面で必要不可
決である。慣れないマネジャは、大変なエネルギーと神経を使うものである。
基本は、従業員との日頃からのコミュニケーションを図ることである。このコミュニ
ケーションというのは「付き合い」「話し合う」ことではない。それは手段であって、
目的は「理解しあう」ことである。相手の立場になって相手を尊重し信頼する態度なし
には双方向のコミュニケーションは存在し得ない。
どんな付き合いをしながら、相互理解を深めていく努力をしたかを話したい。.....
......(個人的付き合いの話)....
RESPECT ME
かつて問題がこじれた事例で、相手が何度も繰り返していう言葉は「Respect me」で
ある。歌の文句に「Please respect me more」というのがあるが、どうも米国人には、
RESPECT COMPLEX みたいなところがある。それは、米国の伝統的思想であるプラグマチ
ズムにも根ざした個人主義(Individualism) の産物であり、また移民の国であるからで
はないかと思う。己の能力を非難(criticize, 良い意味での批判とは異なる) されるこ
とを極端に恐れる。それを認めることは、職業人(Professional)としての誇りが許さな
いというだけでなく、Job Careerに傷がつき、ひいては職を失うことにつながる。これ
は彼にとっては死活問題である。日本では、非難を甘んじて受け、謙虚に反省する、と
いうのが良しとされる。失敗を認め、非難の妥当性を認めても首にはならないわけだか
ら。これが、Job Securityの日米の大きな違いである。このことを絶対に忘れてはなら
ない。.......
CRITICIZE
「Don't criticize me」というのもよく彼らが叫ぶ言葉である。もっとも、仕事が優
秀で自信もあり、人格的にも優れた人間は、「Please criticize」というが、それも人
間を批判するのではなく、その仕事 (戦略・考え方・戦術・計画・結果など)を評価(r
eview)して、建設的意見をくれ、ということである。これを間違うと、あなたはrespec
t されなくなる。もちろん口には絶対出さない。「これはダメだ。もう一度遣り直せ!
」では通用しない。たとえ( 内心大変不満足で) 「大体は良いんだが、まだ不充分なと
ころがあるようなので、もう一度レビューして遣り直してくれませんか」と丁寧に頼ん
でも同じことである。あなたが具体的にどこがなぜおかしい、あるいは不満と思ってい
るのかを指摘し、代替案を提示、つまり指導しないと、部下は納得しない。つまり遠回
しの、本音と建前の混在したような指示の仕方はせず、論理的・具体的でなければなら
ない。それができなければ米国でのマネジメントはできない。
そして、彼らは優秀な信頼に足るボスを求めている。だから、ボスが、日本の人事異
動の如く変わったり、辞めたりすると、その部下も辞めるという風土が形成されている
のである。ボスがどういう分野で優秀である必要があるのかは、職種(エンジニア、セ
ールス、マーケティング、クラーク)にも依存する。最初に、マネジメントスキルを、
People-oriented とTask-oriented の二つに分けて考えてみる。........
.....
マネジメントの問題事例その1 〔関係者外秘〕
xx年xx月に開発マネジャ(Dr.A)が退社した後, Dr.Bを後任に指名した。しかし,他のエンジニアが彼のマネジメントに反発し,
人事部門を巻き込んでの闘争に発展した。その一方で,かつてからの問題児JI(日本的感覚では「いい奴」である)が,JOB
PERFORMANCE評価を契機としてマーケティングマネジャと争い, これも人事部・心理学カウンセラーを巻き込む問題に発展した。
人事の専門家の指導の下に特別のPERFORMANCE REVIEWの手続き( 改善なき時は解雇の理由となる)
を取ったが,これが感情的にこじれる結果となり, 法的解決に持ち込まれる恐れまででてきた。面倒と責任問題を避けることで,弱腰となる。止むなく,
本人が望む開発部門 (元々Dr.A配下であったが彼から見放された経緯あり)に移籍した。しかし,これが裏目にでて今度は他のエンジニアを仲間に引きずり込み,
Dr.Bを追い出す政治工作に走りだした。
Dr.Bは,FEM理論と解析業務実務に関する能力はあるが,ソフト商品の開発やソフトエンジニアの人事マネジメントの経験が余りなく指導力に欠ける。それが分かっていたため,新規マネジャ候補を勢力的に捜し,
適任者を見つけたが FAI人事の標準報酬と彼の要求に開きが有り過ぎ, 結局採用は失敗に終わった。マネジャ採用には大変な労力と時間がかかる。Dr.B率いる開発部隊のモラルも生産性も低下の一途で,数少ないエンジニアが次々に辞める危険がでてきた。もっとも,
開発の戦力になるDr.A時代のエンジニアで残っているのは,LC一人で, あとは契約エンジニア
(当時) のBSと同じくRDだけであった。
これが昨年11月までの状況で一言でいってソフト開発を継続できる状態ではなかった。おまけにプログラムはハリボテの継ぎ接ぎだらけで,とてもソフトの専門家が作ったものではないような状態になってしまっていることが明白になった。過去にも同じ経験があるが,担当者が辞めて責任不在になることはなかった。人はいて,
なおかつ応援の補充要員をアサインできた。しかも皆が責任をもって一生懸命やった。日本のマネジメントは,その人的資源の効用にもっと感謝すべきである。
昨年一年間は,何もかも初めて経験する, しかも日本ではほとんど経験しえないことの連続であった。以下は,
その一例である。この経験を生かすべく努力したい。
・ 1〜3月 IPのJLへの嫉妬とJUへの反発(JOB CAREER 問題)
・ 2〜4月 JIのGTへの反抗 ((3度目: 離婚問題の職場への影響, ATTITUDEの問題)
・ 4〜6月 HQ追い出し (能力不足, 適材適所の厳しさと甘えのなさ)
・ 5〜7月 JI(4度目:JOB SECURITY 問題)
・ 8月 JU退職(VENTURE BUSINESS 開始, INCENTIVE 問題)
・ 8〜9月 JI(5度目) vs.KT/GT(PERFORMANCE CORRECTION PROCEDURE と法的問題)
・ 8〜9月 RD vs.DR (RDのJOB SECURITY問題)
・ 9〜10月 DM vs.DR (強制解雇とソース隠匿問題)
・10〜11月 JI(6度目)/RD/LC vs.DM(開発主導権争い, POLITICSの弊害)
・11/2 組織再編成に着手 (開発メンバ全員平井へ直接レポート)
・11〜12月 全員と面接し,各人の能力・希望を判断し,JOB ASSIGN変更/ 目標設定
・ 1月 BSを開発マネジャに昇格し,新開発体制構築に着手
・ 1〜2月 RDのソース隠匿問題(JOB SECURITY), DM/RD のPMB 契約収賄問題
後日談
このあと半年近くに渡る訴訟の危機(「法に則った公正な判断に従え」を参照)に直面する。しかし、このリスクを覚悟して契約社員であったBSを新マネジャに任命し体制を一新する決断をしたことが、米国でのマネジメントのコツをつかむきっかけとなった。このときに得た数々の体験と知識、そして何よりも大切な多くの人たちとの信頼関係が、その後のビジネス展開の礎となった。GM/EDSとのビジネスでは、BSを中心とした開発部隊、FNI経営問題や訴訟問題では人事・法務・マーケティングそれぞれにLC/TD/GTが大きな力となった。米陸軍研究所のDr.StewartやProf.
Pople(1998年ノーベル賞受賞)とのビジネスではKFが重要な役割を演じてくれた。彼らとは長い付き合いになる。私の大きな財産である。その彼らに何か報いることをしたかどうかが気がかりでもある。
マネジメント問題事例その2 (関係者外秘)
会社設立と訴訟問題
米国での会社設立に関するコメントで,一つ大事なことを忘れていました。会社組織
にすることをお勧めすると,いいましたが,そのもう一つの理由です。
それは,「訴えられた時の逃げ道」としてです。ご存じのように, 米国は訴訟の国で
す。ビジネスにおいても訴訟は日常茶飯事のことです。個人的なビジネス(たとえば日
本での有限会社) をやっていて,倒産とか何かで訴えられたとき,損害賠償責任とその
支払いは個人の資産に影響を及ぼします。しかし,会社( たとえばS-COMPANY)にしてあ
れば,会社としての責任で個人の資産には影響を与えません。つまり,その会社を倒産
(BUNCRUPTCY Chapter11 にfileする) させてしまえば良いわけです。債権者は,会社の
OFFICER(株式会社の場合, 取締役Board of Directors) の資産には手をつけられません
。
自分の家の中で,よその子が転んでケガをしたら,訴えられて, その治療費を自分が
負担しなければならない国です。個人, 事業組織を問わず, 訴訟や損害賠償責任・保険
法・免責条件などについても勉強しておいた方が賢明です。
話は変わりますが,丁度6年前の今日,私は駐在員としてアメリカの地に降り立ちま
した。思いかえせば,苦しいこと楽しいこと悲しいこと,いろんな経験をかいくぐって
きました。仕事の面で,従業員の争いに巻き込まれ,裁判沙汰の一歩手前までいったこ
ともあります。強欲で自己顕示欲だけが強く,他の人間が誰も受け入れなかった男を,
合法的に首にしなければ組織が崩壊する危機に立たされたこともあります。また,誰に
も好かれる非常にいい人をLAYOFFせざるを得ず,心に深い哀しみを刻むと同時に
米国ビジネスの厳しさを思い知らされたこともある。それは,日本のビジネス社会しか
知らなかった私にとっては,まさしく修羅場でした。身も心も切り刻まれるような思い
を幾度となく体験せざるを得なかった。しかし,そのお蔭で私は鍛えられたのだ,と感
謝しなければならない,と思っています。自らの実体験から得たものは,読んだり聞い
たりして得た単なるKNOWLEDGE ではなくWISDOMだと思っています。
個人的付き合いの中でも, いろんなことがありました。たとえば, ある知人は,
雨の
降る夜の高速道路で事故に遇い, 一命をとりとめたもののの両足切断の手術をした。部
下の一人は, やはり交通事故をおこし法廷で裁かれることになり,付き添っていったこ
ともあります。出張先の夜のNYで拳銃を突き付けられ金をとられた友人がいれば,真冬
にやはり拳銃を突き付けられ, 抵抗の気配を見せたため拳銃で頭を強打され,気を失い
凍死しかけた友人もいます。仕事柄, 多くの日本からの出張者の面倒をみますが,路上
や空港, ホテルなどで盗難にあった話は珍しくありません。
すみません。米国での仕事に夢と情熱をかけておられる貴方たちに, ちょっと暗い話
をしてしまいました。だけど,それが現実であり,人生だ, ということはもう御存知の
年代だと推察します。たまたま,私は仕事柄活動範囲や行動半径が一般の人より大きく
広いために,いろんな人生の側面に接することが多いのかも知れません。もちろん,暗
い話だけではなく明るく楽しい経験もたくさんあります。
米国に赴任後 2〜3 年は全米を飛び回っていました。合計すればもう地球を何十周も
しているのではないかと思う。最初の年は半分近く家を留守にしていました。当時三才
と一才の子をかかえて異国の地で一人家をまもらなければならなかった妻は,どれほど
心細く辛かったかと思う。妻あっての夫であり,夫たるもの妻には感謝しなければなら
ないと肝に命じています。しかし,男は女性の前では得てして虚勢と意地を張りたがる
子供のようなところもあるから,我ながら始末が悪い。つまり,素直にありがとう,と
言えないバカな面がある。「また出張ですか... 」といわれると,「仕事だから仕方が
ない... 」などと言い逃れをしてしまったりする。
国 際 商 品 は 日 米 分 業 か ら
〓ELMパッケージ開発〓
FAI企画調査部 平井克秀
ELM....アメリカでは歴史に残る木でもある。ウィリアムペンがインディアンと
和睦を結び,ワシントンが独立戦争の最初の指揮を執ったのがニレの木の下であった
と言われ今もペンの木・ワシントンの木として歴史に残る。日米分業開発の最初のパ
ッケージとして,日米両市場に最初から販売することを前提に開発を進めている。
1.誕生のきっかけ
ソフトウェアの時代を迎え,当社開発のエンジニアリングパッケージの米国への販
売の可能性を検討したのが二年前のことで,低価格ワークステーションでの CAEパッ
ケージ市場の窓が開きつつあった。残念なことに,「日本では完成品であっても,米
国では半完成品 米国のマシン環境で動かない,英語文化向け製品でない 。」
という問題があった。ワークステーション,パッケージビジネス,ソフトの先進性等
において,米国は日本より数年先行していると認めざるを得ない。その差を少しでも
縮め,将来のビジネスの種を蒔くために,現地リソースを使い,米国業界の文化と動
きを肌で感じ,競合できる製品の開発に取り組む必要があるとの認識から,FAIで
の自主開発に踏み切った。実行に移す承認を得て,具体的実施計画と開発要員の確保
に動き出したのが昨年春のことである。
2.開発環境
ELM(Engineering Library for Modeling)は,構造解析プログラムElmAnalysis(
FEM 5のWS版+熱解析) とその解析モデル作成用のElmPreludeおよび解析結果の図形
表示用のElmEpilog の三種から成り, 建築・機械エンジニアのためのライブラリを用
意している。開発用マシンは,FAI設置のVAX11/780 UNIX System V で,プログラム・
ドキュメントはすべてUNIX環境下で作成・管理している。マシン独立と異機種間の互
換をとるのが, パッケージ開発の基本である。ANS FORTRAN 77仕様と, C言語につい
てはUNIX pcc,Lattice C及びMS-C共通仕様を採用している。マシン依存部分の独立性
と性能を高めるために,グラフィック部分については VDIと今後の拡張に対応するた
めにC-bindのPHIGS を検討している。商品化対象マシンは,当初FM16βとIBM-PC/AT
でその後UNIXマシンへ移行する。日本向け商品化はメカトロ, 米国向けは FAIが担当
している。
3.国際商品化に向けて
ELM開発には,FEMを専攻しエンジニアリング業界での経験を積んだエンジニアと
コンピュータサイエンスを専攻した優秀なプログラマが中心になって取り組んでいる
。新規開発のElmPreludeの場合, 設計者一人・プログラマ二人が半年で45KS(C言語)
のプログラムを作った。品質テストは,開発者ではなく社外の専門家に依頼しており
, また商品化作業には,別のスキルを持った人材が要求され, その確保に努力してい
る。特定分野のエキスパートとこの専門知識をビジネスに活かすマネジメントの二極
分化の分業社会が優秀な製品を生み出しているのが, 米国業界の特徴であろう。この
分業構造を取り込み, 最初から日本だけでなく米国・欧州にも販売することを前提に
,体力育成・ノウハウ蓄積と,製品の品揃え・統合化を進めていき, 国際商品として
競争力のあるものにしていきたい。まだELMの根作りを始めたところだが,これか
ら幹を作り多くの枝を伸ばし緑深い大木に育て,その木陰で弾む声が聞ける日が来る
ようにしたい......。
採算管理とその意識向上
会社の業績が芳しくないから、経費削減の努力をしろ、というだけでは不充分である。
一線で働いているManagersの何人が会社の業務内容や経営目標・実績を具体的に知ってい
るのか疑問である。少なくとも経営に関するManagersとして知っておくべきことは周知徹
底し、なぜ経費削減が必要なのか具体的に数値で説明すべきである。
あるとき突然、Managers昇給半年凍結、401K補助半減、昇格人事は 4月と10月などと通
達があると、その裏の事情がわからない従業員にとっては不満材料となる。layoffされた
ある従業員の「FJ日本が利益をだし、好調と新聞で報じられており、FAI も業績が悪いと
は知らされていなかった。なのに突然layoffとはどういうことだ。俺たちはだまされてい
たのか? Unfairだ! 訴えてやる! 」といった発言を誘発することになる。これは、ある意
味で日本的な「本音と建前」の論理構造に起因するものである。また米国株式公開企業で
ないためにも起因する問題である。つまり、四半期毎に経営内容が公開されておれば、す
べての従業員がそれを知ることができれば、「だまされていた」などという発言が出る筈
がない。もちろん粉飾決算報告をしていればそれ自体罪悪であるが。
経営状況について具体的に説明する機会を定期的を設け、Managersの参画意識を高める
努力が必要である。日本人だけが知っていても意味がなく、それは逆に米国人に疎外感や
不満感を与える結果になる。実戦でビジネスを推進しているのは米国人だということを忘
れてはならない。
従業員との日頃からのコミュニケーションを図ることが基本である。このコミュニケー
ションというのは「付き合い」「話し合う」ことではない。それは手段であって、目的は
「理解しあう」ことである。相手の立場になって相手を尊重し信頼する態度なしには双方
向のコミュニケーションは存在し得ない。かつて問題がこじれた事例で、相手が何度も繰
り返していう言葉は「Respect me」である。歌の文句に「Please respect me more」とい
うのがあるが、どうも米国人とRESPECT COMPLEX みたいなところがある。それは、米国の
伝統的思想であるプラグマチズムにも根ざした個人主義(Individualism) の産物ではない
かと思う。己の能力を非難(criticize, 良い意味での批判とは異なる) されることを極端
に恐れる。それを認めることは、職業人(Professional)としての誇りが許さないというだ
けでなく、Job Careerに傷がつき、ひいては職を失うことにつながる。これは彼にとって
は死活問題である。日本では、非難を甘んじて受け、謙虚に反省する、というのが良しと
される。失敗を認め、非難の妥当性を認めても首にはならないわけだから。これが、Job
Securityの日米の大きな違いである。このことを絶対に忘れてはならない。「Don't
crit
icize me」というのもよく彼らが叫ぶ言葉である。もっとも、仕事が優秀で自信もあり、
人格的にも優れた人間は、「Please criticize」というが、それも人間を批判するのでは
なく、その仕事 (戦略・考え方・戦術・計画・結果など)を評価(review)して、建設的意
見をくれ、ということである。これを間違うと、あなたはrespect されなくなる。もちろ
ん口には絶対出さない。「これはダメだ。もう一度遣り直せ! 」では通用しない。たとえ
( 内心大変不満足で) 「大体は良いんだが、まだ不充分なところがあるようなので、もう
一度レビューして遣り直してくれませんか」と丁寧に頼んでも同じことである。あなたが
具体的にどこがなぜおかしい、あるいは不満と思っているのかを指摘し、代替案を提示、
つまり指導しないと、部下は納得しない。つまり遠回しの、本音と建前の混在したような
指示の仕方はせず、論理的・具体的でなければならない。それができなければ米国でのマ
ネジメントはできない。そして、彼らは優秀な信頼に足るボスを求めている。だから、ボ
スが、日本の人事異動の如く変わったり、辞めたりすると、その部下も辞めるという風土
が形成されているのである。
ボスがどういう分野で優秀である必要があるのかは、職種にも依存する。マネジメント
スキルをPeople-oriented とTask-oriented の二つに分けて考えてみる。