造船用図形処理システムVESSELの開発
VESSEL開発は、今から20年も昔のことで、その技術的内容については記憶に定かでな
い。当時の笹原班長がたまたま保管されていた、当時の造船国際会議(ICCAS) に投稿し
た英語の論文が、手元にある唯一の資料である。この論文を今読み返してみると、図形
処理やNC処理の部分はAPT4開発ノウハウを流用しつつも、造船設計固有の処理とNC加工
に繋げるための設計データベースの開発にかなり苦労したことが思い出される。
基本設計で作成される船殻線図 (船体の三次元形状を決める基本線図) をはじめとし
て、船体側壁の形状を表すフレームライン、船倉の各層の断面形状であるデッキライン
、船倉を水平方向に分割する隔壁、この隔壁を通す配管・配線・補強材のための穴や組
立時の溶接箇所の形状 (スロット) などのデータを船殻データベースとして一括管理す
ることが大きな課題の一つであった。当時、今日のような汎用DBMSはまだ開発途中にあ
ったため、三次元形状データベースを一から開発せざるを得なかった。ISAMとBDAMとい
うアクセスメソッドを使って、類似設計 (既存設計データの流用) を可能にし、かつ性
能計算 (面積・重心・容積計算など) を行う設計プログラム(FORTRAN) とのインターフ
ェースを可能とするエンジニアリングデータベース開発への最初の挑戦でもあった。
船殻の詳細設計においては、側壁を構成する垂直方向のフレームと水平方向のロンジ
と呼ぶ鋼材が交差する点( シーム) を決定し、この部分で船倉の隔壁を含む三つの部材
を溶接固定するためのスロットとよぶ間隙を決めていく。その三次元の形状決定と相互
関係を処理するのに悪戦苦闘した思いがある。スロットと呼ぶ部分は、各フレーム毎に
複数個存在するが、その形状はそこを通る縦横の鋼材の形(T型とか L型) や寸法、強度
によって変わる。これを船殻データベースの情報に基づいて自動的に決定する、という
可変図形あるいはパラメトリック図形の概念を初めて採用した。
NC処理においても、APT4開発で経験した旋盤、フライス盤、マシニングセンタといっ
たNC工作機械用の切削工具軌跡データ作成とは異なった工夫が必要であった。ひとつに
は、加工部材は二次元であるが、一枚の鋼材からいかに多くの部材を切り取るかという
ネスティング手法が要求されたことである。また当時ノルウェー(AUTOKON) 製NCガス切
断機が導入され、これを利用するための特殊なポスト処理が必要であった。